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そこには、房一の紅黒い、怒張した顔があつた。いつのまにやつて来たのだらう、徳次はぎゆつと片手で押へつけられたまゝだつた。そして、房一の怒声を聞いた。
「何分ごらんの通りの未熟者でして――」
「はあ、どうも」
それで安心したやうに引つこんだが、しばらくすると又のぞいた。
人に話しかけるときにも半分はきまつて独り言のやうになつてしまふ義母はどうもつれ合ひの道平の癖が丸うつりになつたものらしい。だが、道平の声音こわねはあまり響かないぽつりぽつり石ころを並べるやうな調子だつたのにひきかへ、この義母のは突拍子もなく起つて又駆足で空の向ふに消えてゆくやうな大声だつた。
「ふむ、ふむ」
「これはどこに置きますかね、この漬物桶は。――はい、はい。どつこいしよ、と」
「鮒?――それあ喰べるとも」
義母は明日も片づけ仕事が残つているので泊つて行くことになつた。
「あれですかね、やつぱり自分で歩かなくちやいけませんかね」
「お松は「い」の字と言う酒屋に嫁よめに行ったです。」
と云ふ、思ひがけないほどはつきりした声で差し出した。そして、又淡泊なさつさとした足どりで台所の方へ去つた。
「ほう、さうか。毎年あるのかね。そいぢや、これから度々見られるわけだな」